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三つの魂。
三つの心。
外へ向かうは愚かさか。
内へ向かうは幻か。
……無は終局か。それとも―――
1.天地の雨土纏い
厚い雲が空を覆い隠す。
雨は、濡れた風を揺らした。
そんな中、
「……はっ!」
覇気とともに打ち出す竹刀。
それは狙い違わず、相手の頭にヒットしていた。
「一本!」
審判の判定に、ほっと肩を撫で下ろす。
……と、あまり勘違いしないでもらいたい。私は真剣に剣道をやっているわけではなく、もちろん胴着も着ていない。学校の制服なのだから、それはなおさら。
なのに、今私がいる場所は立派な剣道道場。そういった面で私にあんまり自覚がないのは、小さい頃から遊びに来させてもらっているせいなんだろうか。私にとってはとても有難いことで、今私の相手をしてくれたのも審判をしてくれたのも、ことあるごとに私のわがままに付き合ってくれる自慢の友達だった。
……まぁ、たまにとは言わず、いつも悪ふざけが過ぎるけどねっ。
「また負けた~……」
うなだれながら竹刀を床に置いたのは、兼田。
「もう! なんで姫はそんなに強いのさっ! あたしなんか道場の門の下で生まれたのに!」
……門下生と言いたいんだろうか。
「たぶん栄養ドリンクとか飲んでるせいだよ、きっと」
かなり適当に答える私。
「プロテイン?」
「ふぁいとー?」
「いっぱああああつ!!」
「1000ミリグラム……」
「そこ二人、わけわからん会話しない! いろんな意味で危ないから。」
某CMの真似をしようとしていた私と兼田をツッコミで止めるのは、審判をしてくれた上坂。いろんな面で気が利く姉御だ。兼田はただのボケ。
「確かに姫は強いけど、なんか我流すぎ。もうちょっと……」
「え。」
「お~い」
聞き覚えのある、間の抜けた声。
「高田~」
手を振る兼田の先には、この道場の師範の娘である高田の姿。今日も門下生でもない私に道場を貸してくれた人だ。
「もうこんな時間だね帰らなくちゃさあ急いで!」
早口に言う私。上坂の目は絶対見ない。
しかし、高田から出た言葉は意外なもの。
「え、もう帰るの?」
いつもなら、高田が道場を閉めに来るので、今日もそうだと思ったのだけれど。
ムフフ、と意味ありげに笑う高田。
なんか企んでるな……これは。
「じゃじゃーん! 倉庫のカギー!」
掲げた高田の手には、銀色に輝くカギが。
おー! とみんなで歓声を上げる。
倉庫というのは、道場の離れにある小屋のこと。中に置いてあるのは、もう使われなくなった古い竹刀やマットのはずだけれど、四人とも中に入ったことがない。娘である高田ですらも。
これまで色々と勘繰ってみたものの、結局入れてもらえない理由は分からずじまい。こうなったら、と高田本人も行動に移したようだ。
「やっと手に入れたんだよ~。持ち出すのに苦労したんだから~」
「お疲れお疲れ~」
はーっ、と深いため息をつく高田をねぎらう兼田。
「高田にはスパイの才能ありだね」
「スパイキッズいける!?」
「もうキッズじゃないっしょ、さすがに……」
口々に言いながら、こそこそと倉庫に向かう四人。自然と小声になった。
見つかれば、相当怒られるのは決定的。倉庫の中には本当に何もないかもしれないけれど、こうしているだけで楽しいので、みんなも構わない。
あたりを見回しながら、無事倉庫の扉の前へ。
高田の持つカギで、カチン、と錠が外れる音が鳴る。
途端、
―――ィィ……
「……?」
不意に、上を見上げる。
今日は、朝から薄暗い空。落ち続ける雨。屋根がなければ、私たちはとうに濡れている。
……異変はどこにもない、はずなのに。
「どうかした?」
兼田が言う。ほか二人も、同じような表情をしていた。
……聞こえて、ない?
「…無限の彼方へさあ行くぞ。飛び出せバズ!」
「らいといやー!?」
「早く入れー!」
『うぎゃっ!?』
扉を開け、三人を蹴り上げ無理矢理中へ。台詞が適当だが、要はごまかしだったりする。
「何すん……!」
もちろん三人は痛かったと思われるので、文句を言おうと口を開いたが、それよりも、
「……おぉー……」
上坂が感嘆の声を漏らす。私も、かなり心が躍っていた。
天気のせいもあって、倉庫の中はかなり暗い。手入れがされているはずもなく、マットや竹刀がところせましに並べられ、奥が良く見えなくなっていた。
兼田と高田は黙ったまま。
聞こえるのは、雨の音のみ。
はかったように、
「こんな話を知っていますか……」
『知らないぃぃぃぃ!』
語り始めようとした矢先、怖がりで有名な二人が即座に飛び退く。近くのマットに滑り込み、足しか見えない状態で停止する。
なんだ。せっかく面白い話をしようと思ったのに。思惑通りだけど。
そんな二人を、私と上坂は合掌。助けることはせず、早速別れて倉庫内の捜索を開始した。
そう広くもない倉庫。ぶらつきながら手当たり次第に珍しいものを探していく。
……が、目に入るのはマットや竹刀の、普段見慣れたものばかり。そう簡単には見つからないようだ。
「どうですかー上坂さん。魔法のじゅうたんは見つかりましたか?」
「あるかいそんなもん!」
言葉を掛け合いながら、上坂さんと合流。上坂さんの様子からして、収穫はないらしい。
この場所に長居するわけにもいかないし、今日はこれで切り上げようか、とどちらともなく言おうとした時、
「二人ともー! こっち来てー!」
兼田のお呼びがかかった。
何か見つけたか、と急ぎ兼田たちの方へ。
……兼田も高田も相変わらずの格好だったが、それは置いといて。
兼田の指さす先。
そこには、一本の刀が無造作に転がっていた。
長く、黒い鞘。丹念に編み込まれた柄。
「これ……真剣?」
「ていうか日本刀じゃない?」
私の呟きに答える高田。
それは、確かにテレビで見る日本刀の形をしている。
ただ、おそろしく長い。一息で抜けるんだろうか。その上、紐が柄にかたく巻きついていて、とても抜けそうにない。
それでも、
「すごいね……」
貴重物件であることには変わりない。
「……でも、なんでこんなのがウチの倉庫に入ってるんだろ……」
首をかしげる高田。
私にとっては貴重な体験ができたわけで嬉しい限りだが、高田本人の心情はどうなんだろう。容易に抜けなくなっているとはいえ、真剣を持つには手続きなど面倒な事があるらしい。もし違法で所持しているのなら、大問題だ。
気になるのは、この倉庫に入れたがらなかった高田の父だが―――
……高田には悪いが、
しかし、それよりも、
ィィィ―――……
倉庫の鍵を開けてから、ずっと。
次第に大きくなっていた耳鳴りが、今、頭の中で大きく鳴り響く。
まるで、この刀から発せられているかのように。
「……姫?」
おそるおそる、刀に手を伸ばす。
触れた瞬間―――
「うわっ!」
視界が真っ白になる。
反射的に肩を握りしめ、目をつぶった。
妙な浮遊感。耳鳴りはもうしない。
不意に、背中に温かいものが触れているのが分かった。
すると、頭の上から声が聞こえてくる。
『……のひと、、どうしま…うか?』
「…とり……きずは…いようだな」
二つの声。
誰だろう。両方とも、私の知らない声だ。
誰かと聞く前に、私はようやっと自分が目を閉じていたことを思い出した。
少しずつ、目を開ける。
男の子が、いた。
漆黒の目に、漆黒の髪。そして、それらを隠すように骨らしきものの仮面を被っていて―――
「ェ……オ…?」
思わず私が漏らした声。
……今、私はなんと言った?
自分ですら分からなくなるぐらい、意識が朦朧としていく。
「…まらっ! ここで何を……!」
また、今度は違う、厳格な男の声。が、それすらも妙にくぐもって聞こえる。
―――ていうか、うるさいよ……
思った瞬間、視界がぐらりと揺れて、私は意識を手放した。
それが、これから起こるすべての始まりだった。
続。