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(BLEACH連載 delete)
今日、
テスト期間中だったのに、告白された。
好きだ、って。
好きな人いるのか、って。
すごいなぁ。
勇気あるよね。
……あたしにはそんなこと言うの、無理だなぁ。
返事はいらない、って言われた。
―――良かった。
(榎本夏樹)
壱、
空は快晴。
風は流れ、木々は揺れ、鳥が鳴く。
全ては、そんな必然から。
「……ん?」
不意に、空を仰ぐ。
顔ごと向けると、視界には青が広がるばかり。雲一つない、快晴の昼下がり。
その日差しの下を歩くあたしは、白ブラウスに青チェックのスカート。紺のソックスに赤のネクタイという、バッチリ高校生スタイルだ。今は黒が入っている自慢の蒼い髪は、少し似合わないけれど。
今日は午前授業で、帰宅途中のあたし。
何も不自然なところはない。
……はずなのに。
―――空。もしくは、どこか遠く。
そこにある違和感。
首を傾げども、それは拭い取れるものではないようで、そのまま立ち止まるあたしに、
「……………夏樹ー!」
後ろから突進してくるモノ一名。
それをあたしはひらり、とかわして、
「ぁあああぁぁぁ!」
ずしゃぁぁぁ!
見事に地面に激突したのは、友達の南波。
「南波……毎度ながらやってくれるよ……」
顔面スライディングの体勢のまま動けないでいる南波に、あたしは呆れ顔で返した。
が、即座に起き上がる南波。
「何だよー! 元はといえば夏樹が避けるから!」
元気いっぱい反論するのはいいが、それよりも先に、コンクリートと擦れてかわいそうなことになっている自分自身をなんとかしてほしい。
「はいはい、土ほろってほろって」
「あ、ありがとー」
はんかちを貸すと、素直に受け取りお顔をふきふき。
「感謝!」
「いえいえ」
使い終わったはんかちをやたら丁寧に返却してもらい、笑顔でそのまま立ち去―――
「―――ってそうじゃなくて!」
―――ろうとしたのだが、一歩遅かったようだ。
首根っこをつかまれれば、逃げる手段はない。
「なーにー?」
「露骨に嫌そうな顔すんな!」
いつの間にか、口がへの字になっていたらしい。
南波の前では、どうしても表情が緩んでしまうようだ。知り合って一年ほどしか経っていないはずなのだが……
そういえば、と思い出す。
「南波の帰り道ってこっちだっけ?」
確か、記憶では逆方向のはず。
「夏樹に話があったの!」
決して質問には答えていないのに、びしっ!と指をさし胸を張る南波。
しかし、話題の主が自分だとは思っていなかった。
「あたし?」
オウム返しのように言う。
思い返せども、心当たりがない。さっぱりない。
少し悩んだ末に、あたしは両手を腰に当てる。そのまま南波をしっかりと見据えれば、おそらく思いは届くはず。
「……夏樹」
手招く南波。こめかみのあたりがひきつっているように見えるのは、気のせいであってほしい。
おそるおそる近づくと、南波は真剣な顔をして耳打ちした。
「告られたって、ホント?」
至って真面目な顔をしている南波とは対照的に、あたしはぽん、と手を打った。
「そういえばそんなことも……」
「そんなことも、じゃないーっ!」
いきなり南波が頭を抱えてうずくまる。
「なんっで言ってくれないのーっ! 夏樹はいっつもいっつもー!」
そのままの体勢で叫ぶ南波。
しかし、そこで黙っているわけにはいかない。
「そんなこと言ったって、先に帰ったの南波じゃなかったっけ?」
「うっ……それは……」
ジト目で睨むあたしに、南波は面白いほど小さくなる。
「それに南波、今日のテスト、どうだったの?」
「…………」
もはや完全に目が泳いでいる。
非道というなかれ。目の前の友人は、恋愛沙汰には目の色が変わる。餌食になるとわかっていて大人しくいられるほどお人好しではない。
「頑張ろうね、追・試」
「いやぁぁぁぁ……」
泣き喚く南波を半ば引きずる形で、あたしは帰路から外れていった。これから南波に、みっちり勉強を教えるために。
……南波は騒がしい、ムードメーカー的な存在で、いるだけで、話すだけでその場が盛り上がる。
「で、結局付き合ったの?」
だから、あたしも南波の持つ雰囲気に呑まれていった。
「数学の公式をどうぞ」
そして、不思議と気にしなくなっていた。
「え……えっくすいこぉる……?」
あの時の、違和感を。
その時はそれでいいと思っていた。
実際、その違和感は十数分の間に消え失せていたし、あたしの周りは正常そのもの。
だから、それ以上気にすることはなかった。
あたしが、家に帰るまでは。
がたん、と扉を開ければ、
「ただいま~」
広がる、古ぼけたマンションの一室。
ひどく散らかった、オレンジの光が少しの風で揺らぐような、そんな部屋でも、答えてくれる人がいる。
「遅いぞ」
ぴしゃり、と言い放たれた言葉に、あたしは苦笑する。
「はいはい」
適当に返事をして、学生鞄を床に転がす。
続けてネクタイを外し、制服からラフなTシャツジャージスタイルに。
学生服は嫌いじゃないが、汚すと面倒だ。よって、家の中にいる時はだいたいこの格好でいる。
転々と学校を変えているため、ジャージの替えはいくらでもある。Tシャツも安物を買っているだけだ。
一見すさんだ生活に見えるが、あたしはここでの生活をそれなりに気に入っていた。
鼻歌を交えながら、料理をするべく台所へ向かう。
「今日は~何を~食べようっかな~」
それを遮るように、
「感じたか、夏樹」
声はかけられた。
先ほどからじっ、とテーブルに座っている黒猫から。
「………」
あたしは答えない。
冷蔵庫にかけた手も、それ以上動かない。
それだけで、わかったのだ。
あの時の違和感に、間違いはなかったことを。
「儂は行く」
それは、あたしの予感を肯定するもの。
「おぬしは……」
「それは問いなの? 夜一」
黒猫―――夜一の言葉を遮ってあたしが言う。
あたしは振り向かない。
「いや……」
夜一は一呼吸置いて、
「命令だ」
言った。
「おぬしはここに残れ、夏樹」
再びぴしゃり、と言われた言葉。
反論など許さない、と圧を込めて。
あたしは、ゆっくりと振り向く。
そのあたしを見て、もちろん夜一はため息をついた。
空は快晴。
あたしも快晴。
風は流れ、木々は揺れ、鳥が鳴く。
全ては、そんな必然から、
あたしはやがて、
日常へと戻る。
続。